「にこP」とは、「日(に)本語を話さない友達とコ(こ)ミュニケーション&コラボレーションプ(P)ロジェクト」の略で、オンラインシステムを通じて楽しいコミュニケーションを促進することで国を超えた友達同士の友情を育むプロジェクトです。
「にこP」は、日本の学校と海外の学校をオンライン会議システムでつなぎ、異文化コミュニケーションを楽しむプロジェクトです。参加者は英語を共通言語、あるいは別の言語を用いて、対等な立場でコミュニケーションをとります。活動はDialogbookシステムを用いて記録され、今後の学習に活用されます。一連の活動は、WILLの支援を受けながら、両校の教員が主体的に進めていきます。異文化を知ることは、自らの文化を見つめ直すことにも繋がります。会話を楽しみながら、グローバルな感覚を身につけましょう。
にこPの特徴
にこPには7つの特徴があります。
- 少人数グループワーク
- 同年代の学習者だけでのやり取り
- 導入から省察まで一貫設計されたプログラム
- ICT初心者に優しい学習支援システム
- データ・サイエンスを活用した成果の明示
- 国際学会(SPICE)と研修会(I-WIT)
- 協力し合って英語でコミュニケーション
少人数グループワーク
にこPでは,通常,4~5人の少人数グループで,海外の同世代の学習者と3回のディスカッションをします。

一般的に私たちの「外国」のイメージは,左上の日本地図のように国の形だけで,そこにいる人がどんな人かほとんど知りません。数人以上のグループでのオンライン交流では,真ん中のイラストのように,グループのイメージはできますが,「知り合い」になるわけではありません。少人数のグループ活動を通してこそ,海外の人にも個性があることが分かり,3回同じ人たちと合うことで「人と人」としてつながることができます。
同年代の学習者だけでのやり取り
にこPでは,学習者だけでグループ活動をします。教員はオンラインの世界には入らず,外からサポートします。

学習者は左の写真のようにお互いに距離をとって座り,オンラインでのやり取りを行います。
話題は各プロジェクトで異なりますが,学習者自身に関わることについて話すことをお勧めしています。1回目は自己紹介(趣味や学校の紹介,好きな科目など),2回目は文化交流(アニメや漫画,K-pop,オンラインゲーム,料理・お菓子,地域の祭りなど),3回目は将来の夢(理想の大学生活,つきたい職業,行きたい場所など)についてが通常です。
学習者は熱中して,通常の授業では見せない姿を見せてくれます。右の図はタイ式ボクシングを紹介しているタイの高校生の写真です。ジェスチャーをしている姿が,この生徒の熱中の度合いを示しています。
導入から省察まで一貫設計されたプログラム
英語でやり取りをするためには十分な準備が必要です。また,成果の振り返りが自信とさらなる学習意欲の向上につながります。そのためには導入から省察までを見通した運営が重要です。

にこPでは,上のように「導入」の段階で教員と学習者全員でこの取り組みの目標・目的を共有します。「準備」では,コミュニケーションに必要な英語のスキル,オンライン・グループワークに必要な機器操作の指導・確認,話す内容の検討をします。「実践」では実際に英語で3回のオンライン・グループワークをします。最後に「省察」で全体を振り返ります。
このような基本プログラムに加えて,プレゼントやショートビデオの交換,相手校への訪問を実施する学校もあります。
ICT初心者に優しい学習支援システム
WILLではにこP専用の学修支援システムDialogbookを開発しました。次の図はその学習者用画面です。

左のMy Commentsは学習者に授業の振り返りをさせ、教員からコメントするなどの形で使用できます。Next Meetingでは協働授業に必要なURLをパートナー校と共有します。右のSelf Scoringには,教員が出した質問に学習者が答えるシステムです。教員が学習者とあらかじめ目標を共有するためにも活用できます。
国際協同授業を実施するためには,協働授業の相手校との情報共有が欠かせません。Googleなどのサービスを活用することも可能ですが,Dialogbookを使用することで,ファイル保存や情報共有を確実に行ない,データ漏洩を予防することができます。
データ・サイエンスを活用した成果の明示
Dialogbookを用いた振り返りは様々な形で活用可能です。次の図は生徒(高校1年生)がMy Commentsに書いたコメントの語彙使用変化をワードクラウドを用いて可視化したものと,振り返りに用いられた文章の例です。ワードクラウドでは使用された単語が書き出されるだけでなく,頻度が高い語は太く大きい文字で示されます。

左から右にかけて単語のバリエーションが広がり,書かれた文章の長さや複雑さが大きく変化しています。このような変化が起こった理由について,飯尾ほか(2021)は,生徒が先生に伝えたいと考えた内容が増えたために言語使用も豊かになったと分析しています。
にこPには,Dialogbookなど,このような生徒の変化をICT技術を用いて捉える仕組みが整っています。
国際学会(SPICE)と研修会(I-WIT)
にこPは英語教育・国際理解教育・異文化間コミュニケーション教育の新しい形です。にこPを運営する先生方にその成果を実感していただくために,WILLでは毎年2月に実践報告・成果発表の機会を用意しています。2024年度はインドネシアのガジャマダ大学で,にこPとそれ以外の国際オンライン協働授業の20件の実践報告を含む国際学会 SPICE2025(International Conference on the SMILE Project and Intercultural Communication Education 略称SPICE)として実施しました。左は学会のホームページの一部,右はプログラムです。2025年度はバンコクのタマサート大学で実施します。

これまでの参加者の皆様からは,SPICEでの発表が当該年度の総括になるだけでなく,他の実践を見たり教員と出会ったりすることが,次のにこP実施へのモチベーション向上に繋がるという感想をいただいています。
SPICEの開催日程に合わせて,学校訪問や教員交流を含む教員研修会(International Workshop Initiatives for Teachers 略称I-WIT)も実施しています。
協力し合って英語でコミュニケーション
にこPの最後の特徴は,協働授業の相手が東アジア・東南アジアで英語を外国語として学ぶ学習者であるという点です。
学校で海外との協働授業を継続的に実施するには,時差は2時間以内に収めるのが現実的です。また相手校の先生や学習者が日本という国や日本の学習者に興味を持っていてくれることで協働授業の実施が可能になります。
英語母語話者やヨーロッパ言語を母語とする英語学習者がグループ・ディスカッションの相手となると,日本で英語を学ぶ学習者は「相手から学ぶ」という姿勢になりがちです。一方で,相手が東アジア・東南アジアの学習者の場合,お互いに助け合って分かり合いたいという気持ちで取り組むことが自然と醸成されていきます。
日本の学習者だけでなく,海外からの参加学習者にも,参加してよかったと思ってもらいたい,ワクワクする体験をしてもらいたいとWILLは考えています。国や地域を越えて,協力し合って世界平和を作り上げていく,そういう若者の成長に貢献したいという気持ちでにこPを運営しています。